創業100年を迎え、感慨ひとしおとは存じますが、現在の思いをお聞かせください。
菊池:もし老舗の基準なるものが創業100年ということでしたら、おかげさまを持ちまして、このたび、その仲間入りをさせていただくこととなります。私としては、毎日地道に社業に励んで来ただけのつもりではありますが、結果として創業100年を迎えることができました。これも、ひとえにお客様やお取引先様からの変らぬご愛顧の賜物と深く感謝いたしております。
老舗会社、長寿企業として勝ち残るには、何かしら秘訣があるのでしょうか。
菊池:創業から数えて、私で三代目なのですが、そこに一貫して流れている伝統的理念としては、お客様の立場に立った商品づくりということがあげられます。食品メーカーとして美味しいものを提供するのは当然のことではありますが、それ以上に、お客様の健康に良いものをという一心で佃煮、煮豆、惣菜などの和の伝統食をお届けしてまいりました。ただ、美味しく、しかも健康に良いという2つのテーマを両立させるとなると、低塩・低糖といいますか、調味料をできるだけ使わず、素材そのものの持つ美味しさを引き出していくことが要点となります。そのためコストアップは避けられません。要するに、うちの会社は金儲けが下手なのですよ(笑)。
しかし、利益優先でないからこそ、長年の信用信頼につながったといえるのではないでしょうか。
菊池:確かに、それは、ありますね。利益優先ではなく、お客様優先の姿勢に徹したからこそ、100年の社歴を刻めてきたのだという思いを深くしています。美味しく、健康に良い、しかも安心・安全な食品を提供していきたいという使命感は、社員全員に浸透している基本的な思いであり、それがまた当社の誇りでもありますので、これからもその経営姿勢を貫いて進んでいきたいと思っております。
今やわが国は世界有数の高齢化社会となりました。それだけに健康寿命が問われる時代ではないでしょうか。
菊池:そうですね。今や飽食の時代となり、私たちの食生活は欧米化が進んできました。しかもモータリゼーションの進展、IT分野の急成長により、偏った食生活や運動不足などを招き、結果として生活習慣病を患う方が増えてきています。私は、今の日本にとって、実はこれが一番問題ではないかと思っています。病院・医師・看護師不足など医療の現場は逼迫しており、老人ホームや介護施設も不足している。かといって、自宅介護はご家族の負担が大きい。高齢化社会は喜ばしい反面、一人ひとりが自己の健康を自ら管理し、疾病を自ら予防するという意識を持つことが大切ではないでしょうか。高齢化社会といっても、毎日元気にイキイキ過ごせないと、意味がない。これからの長寿時代は、自己の健康寿命をのばして、すこやかに長生きすることが大事だと思うんですよ。
多くの方々に、元気に長生きしていただきたい。その思いが込められた商品が、黒豆エキスというわけですね。
商品開発のこだわり

「マネされても、マネするな」。開発創造型企業として、次代へと歩む。
「お客様の側に立ち、健康に良いもの をお届けしたい」

菊池:ええ、大豆の中でも、特に黒豆は体に良い成分が多く含まれています。そこに着目して開発したのが、私どもの「黒豆エキス」シリーズです。開発のきっかけとなったのは、平成10年ごろ、ある研究発表会に参加していた時のことでした。一人のドクターが「黒豆の煮汁は体に良い。自分の患者さんにも飲ませている」と、発表したのです。そのお医者さんによると、黒豆に多く含まれるポリフェノールは、血液をサラサラにし、老化防止などに効果があるというではありませんか。それまで、うちの会社では、黒豆を製造するに当たって発生する煮汁は、当たり前のように捨てていました。まさか、それが人々の健康に役立つとは思いもしませんでしたからね。今や「黒豆エキス」シリーズは、生活習慣病などの予防にも効果があるということで大変好評をいただいています。
健康志向の時代ニーズをしっかり捉えた商品として、黒豆エキスは大きな市場を開拓しそうですか。
菊池:私自身としては、一人でも多くの方に、黒豆エキスの商品をご愛飲いただくことを、最大の課題として取り組んでいます。と、いいますのは、生活習慣病は何も大人やお年寄りだけの疾病ではない。今やお子さんたちの間でも、食品アレルギーやアトピーなどの問題が増えてきています。そうしたお子さんを含む幅広い年代層の方々、私としては3千万人から4千万人の方々に、ぜひ飲んでいただきたいと思っています。今後とも皆様の健康生活に少しでもお役に立てばという思いで、普及に最大限の努力をしてまいりたいと存じます。
菊池:私自身としては、一人でも多くの方に、黒豆エキスの商品をご愛飲いただくことを、最大の課題として取り組んでいます。と、いいますのは、生活習慣病は何も大人やお年寄りだけの疾病ではない。今やお子さんたちの間でも、食品アレルギーやアトピーなどの問題が増えてきています。そうしたお子さんを含む幅広い年代層の方々、私としては3千万人から4千万人の方々に、ぜひ飲んでいただきたいと思っています。今後とも皆様の健康生活に少しでもお役に立てばという思いで、普及に最大限の努力をしてまいりたいと存じます。
「開発創造型企業として、 次の100年にチャレンジ」
「マネされても、マネするな」というのが、会長の信条と聞いておりますが、その言葉の意味についてお聞かせください。
菊池:これは、性格によるものかもしれませんが、私自身、流れに沿って生きるというのを良しとしないタイプだと自己診断しています。もちろん伝統を守るというのも大事だと十分に自覚はしていますが、現状維持はどうも性分に合いません。常に変化を求め、新しいことにチャレンジすることに喜びや生きがいを感じる性格なのです。黒豆エキスシリーズの場合もそうですが、いつもお客様の側に寄り添って、こんな商品があればいいな、という思いを実現していくことに楽しさを覚えます。ですが、そうしたことを実行するためには、今まで廃棄していた煮汁の活用といった、いわば既成概念への挑戦が求められます。既成概念を打ち破り、それを具体化し、軌道に乗せるには、当初なかなか理解も得られず、気力・体力が要ることですが、「マネされても、マネするな」の精神でここまでやってきました。
では、これまで業界に先駆けて開発してきた独自商品には、どのようなものがありますか。
菊池:これは、性格によるものかもしれませんが、私自身、流れに沿って生きるというのを良しとしないタイプだと自己診断しています。もちろん伝統を守るというのも大事だと十分に自覚はしていますが、現状維持はどうも性分に合いません。常に変化を求め、新しいことにチャレンジすることに喜びや生きがいを感じる性格なのです。黒豆エキスシリーズの場合もそうですが、いつもお客様の側に寄り添って、こんな商品があればいいな、という思いを実現していくことに楽しさを覚えます。ですが、そうしたことを実行するためには、今まで廃棄していた煮汁の活用といった、いわば既成概念への挑戦が求められます。既成概念を打ち破り、それを具体化し、軌道に乗せるには、当初なかなか理解も得られず、気力・体力が要ることですが、「マネされても、マネするな」の精神でここまでやってきました。
では、これまで業界に先駆けて開発してきた独自商品には、どのようなものがありますか。

菊池:例えばですが、「おにぎり昆布」という製品があります。これは、昆布の佃煮を細かく刻んで、おにぎりの具材として使いやすくしたものです。この業界では、昆布というのは幅広く、厚みがあるほど価値があると評価されてきました。で、私どもとしましても、身が厚くて、幅の広い昆布を切断して、昆布の佃煮をつくっていたのですが、ある時、当社の営業マンがお得意様のもとへお伺いしたところ、その方が昆布の佃煮を包丁で短く切っているではありませんか。わけを聞くと、おにぎりの具材として使うには、昆布が長すぎてはみ出してしまう、だから切っているのだというご返答でした。それならということで、開発したのが、当社が業界に先駆けて開発し、大ヒットした「おにぎり昆布」というわけです。
まさに既成概念にとらわれず開発した商品ですが、そのほかにも、いろいろありそうですね。

菊池:最近のものでは「栗いっぱい栗きんとん」という製品があげられます。これまでの習慣として、栗きんとんには一粒丸々の栗を使用してきました。正月のおせち料理は、縁起物ですから、丸いホール栗をそのまま用い、見た目にも美しくめでたく仕上げるのが常識だったのです。しかし、こうした栗の甘露煮の製造時には、どうしても割れ栗がいっぱい出てくる。それらの一部は、洋菓子などに使われていましたが、それでも工場では、いっぱい余った割れ栗が、在庫となってしまいます。それを、もっと有効に活用できないものか、という思いが前々からありましてね。それが長年の課題となっていました。
ということは、ある時、その課題解決のきっかけが、あったわけですか。
菊池:そうなのです。「栗いっぱい栗きんとん」は平成22年から発売したのですが、その当時、お取引先の女性社長さんと、たまたま交わした商談時の会話が、開発のヒントというか、きっかけとなりました。その社長さんがおっしゃるには、「毎年のお正月には御社の栗きんとんを買わせていただいているが、母に食べさせる時には栗が大きいので、事前に細かく刻んで食べやすくしている」というのです。私はその当時、割れ栗の活用を考えていた矢先だけに、「これだ!」と思い、割れ栗がたくさん入った「栗いっぱい栗きんとん」の製造に踏み切ろうとしたのです。当初は、社内では、縁起でもないと反対されました。が、初年度、テストケースということで発売してみたら、価格がお得なこともあり、これが爆発的に売れました。それで、翌年、商品として大々的に売り出したといういきさつがあります。
やはりお客様の側に寄り添って、それまでの既成概念を打ち破った成果といえますね。
ということは、ある時、その課題解決のきっかけが、あったわけですか。
菊池:そうなのです。「栗いっぱい栗きんとん」は平成22年から発売したのですが、その当時、お取引先の女性社長さんと、たまたま交わした商談時の会話が、開発のヒントというか、きっかけとなりました。その社長さんがおっしゃるには、「毎年のお正月には御社の栗きんとんを買わせていただいているが、母に食べさせる時には栗が大きいので、事前に細かく刻んで食べやすくしている」というのです。私はその当時、割れ栗の活用を考えていた矢先だけに、「これだ!」と思い、割れ栗がたくさん入った「栗いっぱい栗きんとん」の製造に踏み切ろうとしたのです。当初は、社内では、縁起でもないと反対されました。が、初年度、テストケースということで発売してみたら、価格がお得なこともあり、これが爆発的に売れました。それで、翌年、商品として大々的に売り出したといういきさつがあります。
やはりお客様の側に寄り添って、それまでの既成概念を打ち破った成果といえますね。

菊池:開発に当たっては、まずお客様の目線に立って、こんなものがあったらいいな、便利だなという思いに、日頃から課題として取り組む姿勢が大切ではないでしょうか。私が入社した当時といえば、随分古い話になりますが、その頃、煮豆製品というのは真空袋詰めで販売されていました。そのため、甘納豆かと思うほど非常に甘かった。なぜなら、砂糖をふんだんに使って甘くしないと、豆がくずれてしまうんですよ。私は、煮豆というのはお惣菜だから、低糖にし、健康的なうす甘にしなければならないと思っていました。そこで、低糖でも豆がくずれないよう、耐熱性の箱型プラスチック容器を開発し、液入り煮豆を発売しました。この新型容器は、煮豆用としては業界初です。
こうした業界初の新型容器として、そのほかにも開発した実績がありますか。

菊池:はい、その一つにデザイントレー(ブルートレー)があげられます。これは、食卓へそのまま佃煮や煮豆を出せるよう、発砲スチロールのトレーにブルーを基調としたデザインを加えたものです。開発のきっかけは、業界が主催したミセスの方々との意見交換会の時でした。席上、多くの女性から「料理は好きだが、後片付けは面倒。特に皿洗いがね……」という意見が出されたのです。その時、私は、それならば従来の発泡スチロールのトレーを、お皿のようにデザインし、食卓へそのまま出せるようにすればいいのではないかと、思いついたのです。それで、ある包装資材メーカーと共同開発し、ブルートレーを市場に出してみた結果、これが、忙しいお母さん方に、皿洗いの手間が省けるとご好評をいただき、爆発的なヒットとなりました。さらに、私どもでは、少子高齢化社会に合った2個パックの食べきりサイズの容器も業界に先駆けて発売しました。こうした様々な実績で、結構、食品業界に貢献しているつもりなんですよ(笑)。
「一人ひとりの社員の成長が、 会社の発展につながる」
話は変わりますが、どのような方針で社員教育をされていますか。人材教育のしっかりした会社だと聞いています。
菊池:なにぶん食品を扱っているものですから、社員教育には特に力を入れています。当社のシンボルマークは、「味の菊一
(ウォームハート)」です。なぜ、ハートのマークかといいますと、食品づくり、食品販売は、心を込めて行うことが大切だと考えるからです。すべてがアメリカナイズされて、数字で人を判断したり、評価するのが現代の主流となってきています。しかし、日本型の経営はそうであってはならない。一人ひとりの努力や懸命さがきちんと評価され、真心や誠意といった心を大事にする経営が、今の時代こそ、かえって望まれていると強く思っています。心を大事にする社員教育が重要なゆえんです。
なるほど、では具体的にどのような社員教育を実施しているのでしょうか。
菊池:まず基本としての礼儀作法ですね。近年、マナー教育は、学校でも家庭でもその機会が少なくなってきているのではないでしょうか。社会人になって、良い仕事ができるか否かは、相互の信頼関係にかかってきます。ご縁のあった方との信頼関係を築けなくては、仕事は前に進みません。礼儀作法は、その第一歩。基本中の基本といえるものです。また、仕事に対する気構えも大切なことですので、特に新入社員などには、「何のために仕事をするのか」という動機づけを図っています。仕事は生活のためでもありますが、それ以上に、仕事を通じて人間として成長してほしい。入社して1年ほど経過した時、友人、先輩、両親ら周りの方に、「成長したね。立派になったね」といわれるようになる。それが、1 年間仕事に懸命に打ち込んできた証となるのだと考えています。要は、社内だけでなく広く社会に通用する人間になってほしい。そう強く願っています。
企業人である前に、社会人であれ、というわけですね。また、そのように人間として成長することが、お世話になった方々への恩返しにもなりますしね。
菊池:まさに、そのとおりです。毎年、うちの会社では、新卒者を何人か採用しているのですが、入社式では、必ず「初めての給料が出ましたら、その中から、お世話になった方へ感謝の気持ちを込めた品をプレゼントしてください」と伝え、後日の朝礼で、何をどなたに贈ったのか、新入社員各自に発表してもらっています。今までの例では、ゴルフ好きなお父さんにゴルフバッグ、あるいは両親にバスローブ、はたまた家族を食事に招待する……など様々ではありますが、この報告イベントは今日でも欠かさず実施するようにしています。なお、余談ながら、入社して初めての4月の給与日には、私がその初給与を現金で各自に手渡ししています。1か月働いた成果として、給料の重みを実感してもらいたいという思いからのことです。
最後に、菊池食品工業をどのような会社にしていきたいのか、ビジョンをお示しください。
菊池:なにぶん食品を扱っているものですから、社員教育には特に力を入れています。当社のシンボルマークは、「味の菊一

なるほど、では具体的にどのような社員教育を実施しているのでしょうか。
菊池:まず基本としての礼儀作法ですね。近年、マナー教育は、学校でも家庭でもその機会が少なくなってきているのではないでしょうか。社会人になって、良い仕事ができるか否かは、相互の信頼関係にかかってきます。ご縁のあった方との信頼関係を築けなくては、仕事は前に進みません。礼儀作法は、その第一歩。基本中の基本といえるものです。また、仕事に対する気構えも大切なことですので、特に新入社員などには、「何のために仕事をするのか」という動機づけを図っています。仕事は生活のためでもありますが、それ以上に、仕事を通じて人間として成長してほしい。入社して1年ほど経過した時、友人、先輩、両親ら周りの方に、「成長したね。立派になったね」といわれるようになる。それが、1 年間仕事に懸命に打ち込んできた証となるのだと考えています。要は、社内だけでなく広く社会に通用する人間になってほしい。そう強く願っています。
企業人である前に、社会人であれ、というわけですね。また、そのように人間として成長することが、お世話になった方々への恩返しにもなりますしね。
菊池:まさに、そのとおりです。毎年、うちの会社では、新卒者を何人か採用しているのですが、入社式では、必ず「初めての給料が出ましたら、その中から、お世話になった方へ感謝の気持ちを込めた品をプレゼントしてください」と伝え、後日の朝礼で、何をどなたに贈ったのか、新入社員各自に発表してもらっています。今までの例では、ゴルフ好きなお父さんにゴルフバッグ、あるいは両親にバスローブ、はたまた家族を食事に招待する……など様々ではありますが、この報告イベントは今日でも欠かさず実施するようにしています。なお、余談ながら、入社して初めての4月の給与日には、私がその初給与を現金で各自に手渡ししています。1か月働いた成果として、給料の重みを実感してもらいたいという思いからのことです。
最後に、菊池食品工業をどのような会社にしていきたいのか、ビジョンをお示しください。

菊池:会社の未来像を語る時、私は、まず社員に対しては、この菊池食品で働いている、そのことに誇りを持てる会社にしていきたいと常々、述べています。働きがいがあり、仕事にやりがいの持てる会社であること。そこから、新しい時代の伝統を築き、次の100年を目指したいと考えています。一方、お客様に対しては、なくてはならない企業、菊池食品がなくては困るといわれるオンリーワンの会社でありたいと思っています。消費者の方々や、お取引様から喜ばれ、社会的価値のある企業として存続し、発展を続けたいと考えておりますので、今後ともご指導ご鞭撻をお願いしたいと存じます。